ニコン NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR モノクロ都市景観でのレビュー|アキラ・タカウエ

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はじめに

 本格的なミラーレスカメラ時代に突入して久しいですが、ニコンではZシリーズおよびNIKKOR Zレンズのラインナップ拡充が進み、NIKKOR Z14-24mm f/2.8 S(以下Z14-24mm)のような、いわゆる「大三元・神レンズ」のような製品も生まれてきているところです。(Z14-24mm Zスペシャルコンテンツ:アキラ・タカウエによるレビュー記事はこちら)

 大三元レンズの描写性能の秀逸性は感嘆の域を感じ得るところですが、それらを補完する意味合いもあろうかと考えられるズームレンズ、NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR(以下Z24-200mm)が2020年7月に発売されています。このレンズのF値はf/4から6.3と少々暗いとはいえ、24mmの広角から200mmの望遠まで広範にわたる画角であり、様々なシーンで非常に重宝するレンズだと思われます。一方で、いわゆる「便利ズーム」と呼ばれてしまい、その描写性能について心配されておられる方々も多いかもしれません。

 そこで、本記事では、このZ24-200mmについて焦点を当て、本当に便利ズームとしての役割で終わってしまうのか、描写性能はどれほどのものなのか、について高い描写性能、直進性、解像力が要求される建築および都市景観写真をベースとしてレビューしてみたいと思います。

NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VRの仕様、魅力と留意点

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度8秒 絞りF8 ISO100 焦点距離24mm
※NDフィルター:Kani Filter/ホルダー ND64使用

 Z24-200mmの仕様ですが、ニコン社は機動力を確保しながら様々なシーンを撮影したい旅行などに最適なトラベルレンズのスタンダード、と謳っており、小型軽量(約570g)で24mmから200mmまでと幅広い画角をカバーでき、とても嬉しいことに強力な手ブレ補正効果を発揮するレンズシフト方式VR機構を搭載しています。また、描写性能も追求されており、ED非球面レンズ1枚、EDレンズ2枚、非球面レンズ2枚が採用され、周辺領域における画像劣化の低減に努力されているところです。どうしても屋外における都市景観撮影ではシビアとなってくるゴーストやフレアですが、反射防止効果の高いアルネオコートの採用によりこれらを低減してくれるようです。

 では実際に、本レンズのMTF(Modulation Transfer Function)を見てみましょう(Fig.1広角端およびFig.2望遠端)。ちなみにこの、MTF曲線はレンズ性能を評価する指標のひとつで、レンズの結像性能を知るために、被写体の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを空間周波数特性として表現したものであり、レンズ性能におけるコントラストと解像性能を評価する一つの尺度となります。

 赤線で示す空間周波数10本/mm曲線は縦軸1に近いほどコントラストがよくヌケの良いレンズであると評価でき、青線で示す空間周波数30本/mm曲線はこれも縦軸1に近いほど高解像性能を発揮していると評価できます。ここで、横軸は像高、いわゆる画面中心からの距離mmを示します。

■MTF曲線

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左:広角端のMTF曲線、右:望遠端のMTF曲線

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参照元:ニコンイメージングジャパンHP NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR製品ページ

 先ずは赤で示すコントラストに関する評価ですが、広角端および望遠端の双方において、放射方向の空間周波数の漸減がほとんど見受けられず、同心円方向においても30%程度の低減にとどめられている優位点が挙げられます。更に、青で示す解像性能に関する評価ですが、こちらはどんな神レンズでも周辺領域において30~50%の低減が見られるわけですが、本レンズはよく粘っており、広角端放射方向でZ24-70mmを上回る20%の低減、望遠端で40%の低減にとどまっており、ニコン社のステートメントの如く、非常に高い描写性能が維持されていることがデータとして裏付けられています。

 一方で、同心円方向においては、横軸で示す像高15mmまでは粘っているものの、それを過ぎれば極端に曲線の低減が確認でき、結果的には70%前後の低減となっています。ここで、当該MTF曲線は、絞り開放の場合に対応しているものであり、増高の状況を鑑みた場合、高解像度の描写性能が要求される、純建築・橋梁写真等の場合は、1~2段絞ったうえでの撮影で対応したいところです。

 いずれにせよ、非常に軽い当該レンズは機動性は勿論のこと、このMTF曲線のデーターからも十分な解像およびコントラスト性能を保有していることが確認でき、日常使いのスナップそしてトラベルレンズのみならず、都市景観撮影におけるコマーシャル撮影や展示作品レベルの描写性能も期待できるところです。

都市景観を撮影することの魅力とNIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VRの適用性

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度1/500秒 絞りF8 ISO200 焦点距離54mm

 私たちが普段目の当たりにしている都市景観は、その地域における長年の人間生活の間、人工構造物や用途地域の特性に応じた利便性、構造性、商業性、景観性等の様々な「要素」に基づき、進化・退化そして最適化が繰り返された結果収束し、今日そこに紛れもなく存在している「人間社会上の結論」であるといえるかもしれません。

 従って、この都市景観を着目対象に応じた「要素」あるいは「コンセプト」に基づいて的確に切り取ることは、人間生活の歴史や都市の変化変遷の最中にある文化までをもメッセージとして切り取ることに繋がり、写真撮影においても極めて有意義な被写体であると考えています。勿論それは旅行先での街並みをスナップすることも同様です。

 一方で、上記において少し述べましたが、この都市景観・建築・土木構造物の撮影を行った場合、その撮影結果はレンズ性能に強い影響を受けます。折角素晴らしい建築・橋梁そして都市景観に出会えて、凄い構図で撮れたのに、なんか眠たい写真だな、なんか眠たいコントラストだな、となってしまっては少し残念ですよね。そこで、このZ24-200mmの描写性能がどこまでこの都市景観撮影に追随できるのか、その適用性は合格点なのか、レンズの描写性能がより顕著に表れるモノクロによるアウトプットを主体として横浜の街並みをモチーフに確認してみたいと思います。

広角域でのパースペクティブを活かした近景撮影

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度1/45秒 絞りF16 ISO200 焦点距離24mm

 旅先などのでは高層ビル群や変わった構造物を見上げてみることもよくあるのではないでしょうか。その時、24mmなどの広角域での近景撮影は、垂直方向のパースペクティブ(遠近感)がうまれ構造物のスケールを表現できる迫力ある都市景観を撮影でき、まさに広角レンズならではの醍醐味です。ここで、近景撮影における都市景観上の定義としては、対象とする構造物の意匠や仕様材料そして反射率などを視点においても把握することができる、という範囲を指します。従って、その定義を写真撮影においても満足させる必要があります。

 ここは、横浜みなとみらいの早朝の市街。手前に位置する歩道橋と高層建築との対比を構図内に収めていまして、画角内の全て被写体が重要な要素なのですが、全ての被写体において高い解像と直進性を保ちながら、強烈なパースに的確に追随しています。ここで、上記のレンズ仕様の際に、少々心配していた写真周辺部や隅角領域で解像性、コントラストそして豊かな階調が大きな崩れもなく維持されており、朝日を浴びる高層ビル群の一角をシャープな解像性にとソフトな階調を同時に表現することができています。

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度8秒 絞りF16 ISO140 焦点距離24mm
※NDフィルター:Kani Filter/ホルダー ND64使用

 次は、NDフィルターを用いて8秒ほどの昼間長時間露光を行い、風の強い日に或る街角にたたずみ、ダイナミックに流れる雲と微動だにしない構造物に直面している、という場面をかなりチャレンジングな構図設定で表現してみました。この写真においても、このレンズの解像性と近景の電灯から近・中景に位置する高層ビル群にいたるまでの解像力と構造物の直進性はまさに合格点。

 そして、右上に位置する電灯や左に位置する高層建築の下部などにおいてもその性能は維持されており、このような少々チャレンジングな要求においても果敢に追随してくれる性能を保持していることが明らかになりました。更に付け加えれば、NDフィルターを使用することによるレンズ性能の顕著な劣化は確認できていません。

構造物単体の中景撮影

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度8秒 絞りF16 ISO200 焦点距離102mm
※NDフィルター:Kani Filter/ホルダー ND8使用

 それではもう少し離れた視対象に言及してみましょう。先ほどのような近景撮影を行い、引き続き街中を散策している際、突如としてなかなか面白い形をした構造物にであうこともあるでしょう。このような高層建築の全容を立面図のように撮影することが可能となる範囲は、大抵の場合その距離は中景(概ね400m程度)に位置することになります。こんな時でもこのレンズ交換は勿論必要ありません。近接撮影に引き続き、そのままこのような中景撮影に集中することができます。これがいわゆるトラベルレンズの最も有意な点です。いわゆる被写体の散策と構図設定に集中できるわけです。

 被写体は横浜インターコンチネンタルホテルの北側正面。柔らかい光があたる優雅な曲線を有する構造物のテクスチャーと反射光のグラデーションを中景でありながら美しく表現できています。ここで少し意地悪をして、左下にパシフィコ横浜の屋根を入れてみたのですが、私の懸念は徒労に終わりました。独特の意匠性をもつシェイプの解像性とコントラストの階調性能はしっかりと維持されています。

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度1/1500秒 絞りF8 ISO200 焦点距離53mm

 折角ですのでこの北側も廻ってみましょう。視対象を縦構図で撮影。豊かな階調とともに頂部の女神像までしっかりと解像されています。

複合的な視対象

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度1/500秒 絞りF8 ISO200 焦点距離100mm

 次に、もう少しチャレンジングな構図に挑戦してみましょう。複合視点です。近くに或る視対象と中景に位置する視対象を複合的に画角の中にパッキングした構図になります。ここで景観写真上、重要となるのは先ほど申し上げた、近景撮影における都市景観上の定義を満足させることのみならず、中景も同時に満足させる必要があります。ここで、中景は被写体自体にコントラストの違いを理解することができて、その形態や意匠、そして構成要素を理解できる程度、と定義できます。

 近景に赤レンガ倉庫の壁面、中景に赤レンガと朝日を浴びて美しく輝くランドマークタワー、少々難しい条件ですが、近景の赤レンガ壁面の詳細なテクスチャーと材質感のみならず、中景における複合視対象の構成要素がしっかりと、明確に表現することができています。

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度1/1500秒 絞りF8 ISO200 焦点距離170mm

 それではこの複合視点をもう少し発展させて望遠域ではどうなるのかを見てみましょう。ランドマークタワーを含む高層ビル群を遠景に捉え、中景に高層ビル群の中景として画角に挿入したコンセプトです。このレンズの望遠域での性能も特筆すべきものがあることがわかりました。近景での要求事項である「構造物の意匠や使用材料そして反射率などを視点においても把握することができる」ですらこの望遠域においてもしっかりと満足されています。加えて、同時に背景としている雲や空の大気の変化もマッシブな構造物と同時にその対比として表現されています。

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■撮影機材:NIKON Z 7II + NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR
■撮影環境:シャッター速度213秒 絞りF8 ISO200 焦点距離24mm
※NDフィルター:NiSi Filter V7ホルダー & ND32000使用

 最後に、みなとみらいの全景をとらえることができる万国橋からのスカイライン撮影です。ここで、人・雲・大気そして水等の全ての動体物を全て消去・平坦化し、構造物自体を先鋭化するため、15 stopの効果があるNDフィルターを用いて、213秒もの超長時間露光を行いました。中央に視認できる、タワークレーンのみならず付属するジブやワイヤまでもしっかりと解像しているとともに、周辺に至るまで歪のない正確な描写を表現することができています。

まとめ

 今回は、トラベルレンズといわれているこのZ24-200mmを使用し、はたして描写性能はどこまで街並みの撮影に追随できるのかをテーマとし、様々な距離に位置する視対象について都市景観の基本に準拠した画角設定で撮影に臨んでみました。その結果、解像度、直進性、そして階調性などの描写性能は、いわゆる便利ズームの域を超越した性能を保持していることが明らかとなりました。

 勿論、等倍プリントを行う際の画像劣化を極限まで低減したより高い描写性能を有する高性能レンズと使い分けることも適宜必要になることあるかもしれません。しかしながら、やはり便利・軽量は正義なのかもしれません。兎角荷物も多くなる旅行先や仕事での業務撮影等、利便性と描写性能とバランスが要求されるようなケース、こんなケースは多々ありますよね。そんな時、軽量で広域にわたる画角をレンズ交換を行うことなく撮影できる高い機動性という最大の利点と、この描写性能とのバランスは、そのようなケースにおいても撮影に集中でき、そしてシャッターチャンスを逃さない、更に描写性能においても大きな問題は発生しない、という利点を鑑みれば、このレンズの適用性と汎用性は極めて高いものと考えられます。

■写真家:アキラ・タカウエ
 写真撮影での主たるカテゴリーは、構造工学や景観理論に基づく論理的で精密な構図に芸術的要素を加えた「アーキテクチュラル・ファインアートフォトグラフィー」。構造物の専門家の視点から世界の都市景観・土木建築構造物を撮影。世界規模の国際写真コンテストでは、インターナショナルフォトグラフィーアワード(米国:ニューヨーク・カーネギーホール)での建築写真総合部門・最優秀賞受賞をはじめ、海外で数多く受賞。 建築・橋梁のエディトリアル撮影の他、国際写真コンテストの審査員も務める。また写真作家としてアートギャラリーでの個展および定期展示開催。博士(工学), 一級建築士, 技術士(建設部門)

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